東京高等裁判所 昭和25年(行ナ)8号 判決
原告 野田登三郎
被告 特許庁長官
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告代理人は、昭和二十三年実用新案登録願第五四五二号拒絶査定不服抗告審判の審決(昭和二十四年抗告審判第二一五号)はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求原因として次の通り陳述した。即ち、
原告は昭和二十三年実用新案登録願第五四五二号拒絶査定不服抗告査判を請求した処、本件抗告審判の請求は成り立たない、という審決を受けた。然し、右の審決は実用新案法第一条の解釈を誤つた違法である。
(イ) 本件昭和二十三年実用新案登録願第五四五二号の考案要旨は、その説明書及び図面に明らかなように『書籍、雑誌、册子等(C)に於ける記事(B)の余白部分(1)に挿画(2)を設けて成る「カツト」装置に於て、該挿画を広告の構成を有する挿画(2)を以て充当して成る書籍、雑誌等に於ける「カツト」装置(A)の構造』にあつて、その効果は、本案「カツト」装置(A)は広告の構成を有しその作用を兼ねているから、(一)紙面は単一の「スペース」で足り、(二)広告に対する注意力と認識を深くし、特に主題に対しこれにふさわしい商品の広告を結合すれば広告作用と「カツト」作用との何れをも増進することができ、又(三)自然に広告を芸術的にし、従つて在来の広告が専ら看者の刺戟を目的とし寧ろなくもがなのものであるにひきかえて深い好感をよびおこすことができる点にある。
(ロ) これに対し本件審決では、本件出願の考案要旨を『書籍、雑誌、冊子等(C)に於ける記事(B)の余白部分の目的の挿画(2)を設けた「カツト」(A)の構造』にあるとし、これは要するに紙片の記事の余白に記載した広告用の単なる絵画に過ぎないもので、所謂実用新案の対象となるべき構造に係る型の考案と認められない。原告(抗告審判請求人)は前記「カツト」(A)を特に「カツト」装置の構造と称し、これは書籍、雑誌等の一部を構成するものであるから該部分を一つの物品の型と認められるものであり、これが広告の作用を有するものであるから実用新案の対象となし得ると主張しているけれども、前記の「カツト」装置は書籍、雑誌等の一部を占めているものであつても、構造としての何等の構成要素がないので、これを装置の構造とは認められない、又構造と認められないから作用効果の有無は問題でないと述べている。
(ハ) 然し、本件出願の考案は実用新案法第一条にいう物品に関し構造に係る実用ある新規の型の工業的考案に該当し、同条の要件を具備するものである。以下各項にこれを詳説する。
(A) 本願にいう「カツト」の意義。例えば平凡社発行百科辞典に依れば『書籍、新聞、雑誌等の紙面を飾るために本文の前後上下等適宜の空間に挿入する装置』(右「装置」とあるは「装画」の誤記である)とあり、これ等辞典等の説明を採れば要するに『書籍、雑誌等の記事の余白に本文の体裁をよくし文章の味を深め品位を高める為めに用いられる挿画』をいうものと解される。
(B) 本件考案の「カツト」は原審決にいう『単なる絵画』でなく(一)書籍、雑誌等(C)に於ける(二)記事(B)の(三)余白部分(1)に、(四)広告の構成を有する(五)挿画(2)を設けた「カツト」装置(A)であり、(一)(二)(三)(四)及び(五)は何れも構造としてその構成要素を為しているもので、この五個の構成要素が有機的に結合されて「カツト」を一つの大きな構成要素とする装置が構成されているのである。又本件考案は『広告の作用と性質を加味した挿画(カツト)を構成要素の大部分とするもの』であるとも考へられ、実用新案法上の構造が充分に具現されているものである。
(C) 実用新案法上で装置又は構造というのは、必ずしも機械器具その他立体的構成を有するものに限らず、登録例中に株式図表、計算表等があることで明らかに証明される様に平面的のものも装置であり構造であることは被告も肯定することと思う。本件考案が「カツト」(挿画)であつても『実用ある』ものである以上、これを構造と認めて差支えなく、換言すれば一面挿画(カツト)の性格を有し、他面実用新案法上の構造であつても矛盾はない筈である。
(D) 「カツト」が、広告としての性格をも有することが何故に装置として即ち構造としての要素を強くするかといえば、先づ構造というのは一つの構成分子と他の構成分子とが有機的に関連して一つのものを形成する場合であると考えられる。例えば歯車と車軸と箱とが荷車を形成し、この三つが荷車の構造の構成分子である。そしてこの場合各構成分子は本来の形のまま結合されている。これに反し、本件の「挿画」なる構成分子と「広告」なる構成分子とは、前記の歯車、車軸等に相当するものであるが、その結合の態様は重量的とでもいうべきで、互に一体的に化合化している。この点で機械器具等と異る特色を有し、構造でない様に誤解され易いが、「挿画」と「広告」とは明にそれぞれ独立した一個の構成分子であり、これが重量一体化して広告の構成を有する挿画となつたのであつて、平面的であり、重量化してはいるが、明かに各構成分子としての価値を有し、これが結合されて「カツト装置」なる一つの実用新案法上の構造を形成していることは一点疑問の余地がない。
(E) 最後に、実用新案法上の「実用ある」ものである点について述べれば、先づ広告は余白部分を利用し、本文に関係なく商品の販売等の目的で専ら看者に刺戟を与える絵画文字等による平面的形象で、寧ろ本文に害あるものである。然るに「カツト」は内容の如何を問わず本文を生かすためのもので且つこれと密接な関連を有し、両者共本文の余白に挿入されるものでも両者間には劃然たる区別がある。この二つを一体化するものである本件考案は今迄全然なかつたもので、一つにして二面の作用を有し、又寧ろ不快なものである広告を本文に気品を与え体裁を良くするものとするので、この効果が実用新案法上の「実用」であることは否定の余地がない。
被告代理人は主文と同趣旨の判決を求め、事実上の答弁として次の通り陳述した。
原告の主張は、本件考案が『挿画なる構成分子と広告なる構成分子とが重量して一体化し「カツト装置」なる一つの実用新案法上の構造』を形成しているというているが、装置といい構造といい得る為には、それが実用新案法上の物品の型であることが必須条件であつて、その構成分子自体も亦それぞれ型でなければならない。然るに、挿画も広告も共に物品の型とは認められないので、これを結合したところで本件の「カツト装置」なるものは物品の型でなく、従つてこれが構造を構成するものとは為し得ない。
蓋し、実用新新案法にいう型とは、一定の具体的形態をいうのである。尤も、その形態ということは、必ずしも平面的のものを除外しない。従来物品の型として取扱われたもの、例えば万年暦、計算図表の如きものは線、区劃、目盛を用いた一定の形態を有し、従つて、型と見ることができるからである。然るに、本件の「広告の目的の挿画」は抽象的表現のものであつて、これが書籍、雑誌等に於ける「カツト」であつても、その対象は無数のものであつて何等前記のような具体的形態を特定することなく、従つて、前記のものと同一視することはできない。尚、原告は本件考案が実用新案法上の「実用ある」ものである点について述べているが本件考案が物品の型と認められない以上、この点に論及する必要を認めない。
三、理 由
原告の主張によれば、本件出願の考案要旨は、その登録願中の説明書及び図面により明らかなように、『書籍、雑誌、冊子等(C)に於ける記事(B)の余白部分(1)に挿画(2)を設けて成る「カツト」装置に於て該挿画を広告の目的作用を有する挿画(2)を以て充当して成る書籍、雑誌等に於ける「カツト」装置の構造』にあるというのである。
而して、実用新案法第一条には実用新案の登録を受けられる考案は「物品に関し形状構造又は組合わせに係る型の考案」であることを要件とし登録は「その物品の型」について与えられることを規定している。本件の場合審決では、本件出願の考案要旨とするところはこの形状、構造又は組合わせの何れにも該当しない。即ち型に関する考案でないと認定したのに対し原告は本件考案要旨は構造に係る型の考案であると主張している。
よつて此の点が本件の唯一の爭点であるからこの点を審案すると、先づ構造というのは物品が二以上の部材又は部分から成り立つていてそれが抽象的表現のものに止まらず客観的に具体化され且つ特定の形態的関連を持つて一体を為している場合をいうのである。本件出願の考案要旨とするものは書籍雑誌等なる物品に関してはいるが、記事(B)の余白部分(1)に掲載した挿画(2)に従来「カツト」の有する趣味的内容を与えると同時に広告としての目的及び作用を有せしめた点を主眼とするもので、挿画の内容又はそれに加えた説明的文字の意味如何を考案としたものである。従つてカツト(2)が挿画たることと広告たることとの両作用を有するものたる点のみについて言えば全く観念的且つ抽象的表現のものに止まつて居つて、挿画、広告用の文字及びその組合せ方法はいずれも無数にありうるのであるから、その構成自体並びに構成によつて生じたもの自体もまた何等具体的形態を有するものを特定しないものというの外なく、このようなものは前記実用新案法第一条に所謂構造といい得ない。従つて本件出願は同法案に規定する登録要件を具備しないものである。
(イ) 原告は本件考案要旨を(一)「書籍等(C)」(二)「記事(B)」(三)「余白部分(1)」(四)「広告の構成」(五)「挿画(2)」よりなる「カツト」装置の五つの構成要素が有機的に結合された構造であると述べているし、又「広告の作用と性質を加味した挿画(カツト)を構成要素の大部とするもの」であるから実用新案法上の構造と認めるべきであると主張しているが、実用新案法上の構造を構成する要素は物品の部分又は部材でありそれ等が形態的に関連しているものでなければならないこと前項で述べた通りで、前記のように書籍等の記事の余白に挿入した挿画即ち所謂「カツト」が広告の目的及び効果を兼備しているような場合にはこれを構成要素の有機的結合と称するよりは、寧ろ紙面に広告を掲載するについて、その配置上の考慮をなすに当り「カツト」を利用するに止まるものとみるのが相当であるから、実用新案法に所謂構造を構成しないこと明であり、この点の原告の主張は採用できない。
(ロ) 原告は本件考案要旨は機械器具のように立体的のものではないが、実用新案の登録例中にも平面的な計算図表のようなものがあることは被告も認めているところであり、本件の場合も平面的なものであつても構造と認められるべきであると主張しているが、登録例中にある平面的なものというのは、被告が述べているように、線、区劃、目盛の一定位置的関係に結合したものであるから、それは抽象的表現のものではなく、客観的に具体化された特定の形態を有し、物品の型と見ることができるのに反し、本件の考案は線、区劃、目盛又はこれに準ずるものの具体的結合とは全く相異していて、何等具体化された特定の形態を有するものとは認められないのであるから前示のものは本件に適切な例とするには足りない。
(ハ) 原告は「実用ある」ことを以て実用新案法第一条に所謂構造又は型であることの要件であるように考え、本件考案が「実用ある」から構造であり、従つて型であると主張している。しかし、実用新案法第一条には物品に関し構造等に係る型が実用ある場合には登録されそれが実用ない場合は登録されない旨を規定しているのであつて、実用ある場合でもそれが構造(又は型)でないことがあり得るは当然であるから原告のこの点の主張は理由のないものである。
なお、原告は昭和二十六年五月十一日附準備書面において、本件の考案が物品の型に該当する理由を詳論しているが、右は敍上の説明に反し原告独自の見解を主張しているものというの外なく、いずれも採用することができない。
よつて、本件出願の考案は実用新案法に所謂形状、構造又は組合わせの何れにも係らぬものであるから、同法第一条に規定する登録要件を具備しない。従つて同様の認定に依つて原告の請求を成立たないとした本件審決は正当であり、これが取消を求める本訴請求は棄却されるべきものである。よつて、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条、第九十五条の各規定を適用し主文通り判決する。
(裁判官 中島登喜治 薄根正男 原増司)